悲しみに明け暮れている。
生活圏内で1番のお気に入りだったカフェが年末に閉店してしまっていた。年末年始の開店日を確認しようと店前まで行ったところ閉まったシャッターに『12月xx日をもちまして諸般の事情により閉店いたしました』という旨が書かれた紙が1枚だけ無機質に貼られていた。軒先のテントはまるでこれまでもずっと無かったかのように無残に姿を消していて、残された随分くたびれたテント用フレームが一層のさみしさを滲ませていた。年始にやっているなら行きたいなと思っていた矢先の出来事だったからあまりに衝撃が強くて、目の前の文字を飲み込むことができずにしばらくシャッターの前で呆然としてしまった。
お店のSNSは閉店の前日も普段と変わらぬ調子で投稿していて、まるでそんな素振りは伺えないし閉店の旨は今も投稿されていない。最後の投稿があまりに平常すぎてなにか間違いが起こって時間が止まってしまったかのようになっている。
1番のお気に入りのカフェだったけれど実はあまり多くは行けていなかった。というのもお店の休業日と僕の休日が噛み合わないことが非常に多かったからだった。夜営業をやっていなかったから平日は当然行けないし、休日に店まで行って「今日もやってないのか〜」という日が非常に多かった。臨時休業の日もかなり多く、ここ最近は全然行けていなかった。
特徴を書くと特定される気もするけど、サイフォンコーヒーをつくりおきせずに1杯1杯淹れるいいお店だった。お店の雰囲気は清潔感のあるモダンレトロなカフェで、落ち着いているのでカフェというよりは限りなく純喫茶の雰囲気だった。かなり見つけづらい奥まった場所にある穴場な感じのお店でとても居心地がよくてケーキとコーヒーが抜群に美味しかった。ランチは少し量は少なかったけれどカフェのランチというよりはビストロのようなメニューを出していて、ちゃんとオーダーごとに用意する丁寧な味の美味しいランチだった。食後にインスタントではなくサイフォンコーヒーがついてくるからすごくコスパがよくて、東京に来たばかりの僕に「こんな店があるなんて、もしかすると東京って意外といい街なのかもしれない」と思わせてくれたお店だった。
閉店の理由は諸般の事情としか書かれていなかったから想像の域を出ないけれど、今のこの時代だからまあ色々あるんだろうなと思う。
単純にコストをかけたメニューだったから増税もあり人手不足の時代だしで経営難だったのかもしれないし、ビルの取り壊しが決まったり賃料の値上げが発生したりしたのかもしれない。あるいは親の介護や死別によって続けることが困難になったりモチベーションがなくなったりしたのかもしれないし、もしくは働き続けることが難しいレベルの難病を患ってしまったのかもしれない。あるいは飲食業以外にも本業があって両立させることが難しくなってしまったのかもしれない……。わからないけど、なにかしらがあったのだろうなと想像する。
なにはともあれ2019年の終わりにある事実としては、お店が閉店したこと。おそらく二度とシャッターが同じお店の名前で上がることはないこと。お店の空間で過ごした思い出だけが僕の中で残り続けること。
ただそれだけであり、だからこそ強いさみしさがある。
年内でかなり印象深い出会いと別れだったから、どうしても今年のうちに書いておきたくて他のトピックを押しのけて書いた。
なんやかんやあった2019年とも今日でお別れです。よいお年を。