目を閉じて昔を思い出すと、浮かぶシーンのそれも大多数が「もしかするとあの頃の日々は幸せだったのかもしれないな」と思ってしまうものになっている。
思い出が美化されているだけのはずで、当時は当時でつらく苦しい日々でくたびれていた。そんな美しい日々ではなかったはず。記憶の中のひとつのシーンだけが切り取られて美しく見えるとき、背景にあった様々なコンテキストのディテールはすべて失われている。
記憶が美化されているということは記憶が都合よく改ざんされているということの裏返しであって、今日の記憶も数年後には忘れ去られていくか、あるいは自分の脳内で無意識に改ざんされていくのだろう。