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タブレット注文 ソフトウェアの難しさ

大衆向けチェーンの飲食店のカウンター席でランチを食べていたら隣に60代くらいの人が座った。『お茶はセルフサービスになっています』と言いつつお冷は店員さんが持ってくるという謎の運用体制になっている。よく聞き取れなかったのか、あるいは謎の仕様を理解できなかったのか、何度も説明されていたのでなんだか初手から気になっていた。

店は人件費削減のためか時代に合わせてか完全タブレット注文の仕組みになっている。卓には紙メニューもあるし呼び出しボタンもあるのだけど、店員さんを呼ぶと『タブレットで注文お願いします』と促される。もしかすると本当は紙メニューと呼び出しボタンがあることから、店舗マニュアル上は店員さんに直接オーダーも可能なのかもしれないが、従業員の気分あるいは能力に委ねられているのかもしれない。もしかすると店員さんは先輩から教育を受けるときに『タブレット注文する仕組みだから』としか教わっていない可能性もある。

隣の人が紙のメニューを見終わって呼び出しボタンを押した。店員さんがやってきて『タブレットでお願いします。』と言う。隣の人は『あぁこれ、、』と若干の戸惑いの様子を見せつつタブレットをポチポチ触りだしたが、初期起動画面の言語選択で10秒くらいかかっていた。文字がすごく小さいのだ。

タブレットでメニューを選び、「選択(add to cart)」ボタンを押すと、ドレッシング選択やご飯の量や追加のオプション品を選ぶ画面になるが、ここでもすごく操作を迷っていた。文字が小さく、何をすればいいのかがパッとわからない。こういったアプリケーションのUIに不慣れだとデフォルトの設定という概念も難しいのか、初期状態で選択されているデフォルト設定の箇所を何度もタップしていた。当然すでに選択済みなのでなんのインタラクションもUIの変化もない。それが逆に分かりづらいのか余計に混乱させていたように見えた。

どうにかこうにか数分をかけてようやく「追加確定」ボタンを押した。しかしこの店のタブレットは1商品を確定させると一覧画面に戻る設計になっている。「(カートに)追加確定」であって "注文を確定" ではない。しかし次にどうすればいいのかの指示はアプリケーションからはなく、隣の人は固まってしまった。

さすがに声をかけてあげようか迷っていると、またタブレット操作をし始めた。ドリンクメニューへ行きビールをカートへ追加しようとするとオプションメニューが表示され「いつ持ってくるか」の選択をさせられていた。

※該当するものを 1 にしてください

食事のまえに + - 0
食事と一緒に + - 0
食事のあとで + - 0

注文個数のコンポーネントとロジックを使いまわしているらしく、こういう表示になっていた。複雑である。

なんとかあるいは勘で選んでカート追加を確定させた隣の人だったが、仕様通りまた商品一覧画面へ戻されてしまい、また固まってしまった。

実はタブレットの右上には「注文リスト」というボタンがあり、実はこれがカート確認ボタンである。ここへ行くと「カートに追加したものリスト」と「注文確定ボタン」があり、ここからようやく注文確定ができる。

いよいよ老眼鏡に手をかけ、注文確定するためにいろんなところをポチポチしていた隣の人だったが、あやうく同じ商品を再追加しそうになったりしていて、さすがにムリそうだったので僕が痺れを切らして声をかけてしまった。

『すみません、もしお困りでしたら注文手伝いましょうか』

注文内容を読み上げて間違いがないか確認してから、注文確定ボタンを押してあげた。

隣の人は『いやぁお手数おかけしました』と言う。『いえいえ、大丈夫ですよ』(だって難しいですもん)。


アプリケーションが悪いと思う自分もいるが、一方で万人が使いやすいアプリケーションを作ることは非常に難しく仕方がないと思う自分もいる。おそらくこのタブレットのアプリケーションを開発しているのは外注のシステム受託会社だと思うが、アプリケーションの導線設計からアクセシビリティにまで気を配った企画と実装と運用保守をするのにはものすごくお金も時間もかかる。

自社開発部署を持たない会社が発注するアプリケーションでここのクオリティを保つことは難しく、受託のエンジニアやデザイナーもここを手厚くカバーするには工数がかかるし、コストカットされても仕方ないとも思う自分がいる。自社開発であっても、そもそもソフトウェアでここのベースラインを容易かつ安価に保つ手法は確立されていないので普通にコストは下がらないし、技術的にも企画的にも難しい。

自分はこのチェーン店に何度も通ってよく注文しているからこの店のタブレット操作については熟知している。初めて触ったときも前提の知識があるので多少わかりづらくてもシュッと理解できた。でも多くの人にとってはそうではないだろうし、全面タブレット化したことで大衆向けの幅広い年齢層が利用するチェーン店でスムーズに注文できなくなって体験が下がっているのは皮肉だなとも思う。

コストカットと効率化のために導入したのに、結果として店の回転率を下げたり、例外をカバーするために店員が少ない人数でサポートをする必要が出たり、よくない体験を客に与えてしまい再訪チャンスを逃したりしている部分は絶対あると思う。


タブレット化ないしはデジタルシステムを導入してコストカットや効率化を目指すことが悪いのかというと、そうではないとも思う。企業としては正しく時代にも沿っている戦略だと思う。

大事なのは「導入したらよくなる」とか「導入したら未来永劫いい感じ」とか「デジタル化するとコストがゼロ」という間違った前提をなくして、デジタル化したあとに出てくる様々な問題やコストと対峙し続ける覚悟なんじゃないかと思う。

人件費やアナログな運営によるコストを下げる代わりに、新たなこれまでにはなかった問題やコストは出てくる。そういった問題やコストと対峙し続けることができるかが結局のところ勝敗の分かれ目なんじゃないかなと思ったりしている。